2012年4月6日金曜日

連載【15歳からの数学(桜井進)】第1回 算数が数学にかわるとき


第1回 算数が数学にかわるとき


わが国の小学校の算数の問題をみてみましょう。

小学校 2 年生
問題 1.図の線をつかって、のこりの 2 辺が 8cm である二等辺三角形をかきなさい。








小学校 4 年生
問題 2.次の図の角度を求めなさい。


小学校 5 年生
問題 3.次の三角形の面積を求めなさい。




これに対して、高等学校の数学の問題をみてみましょう。

問題 4.三角形の 3 辺の長さ a,b,c の間に成り立つ関係を求めよ。



問題 5.次の三角形の面積を求めよ。




問題 6.三角関数 f (x) = sin x を微分せよ。


さて、小学校の算数の問題を解くことは読者のみなさんに任せるとして、高校の数学の問題を解 きながら算数と数学の風景のちがいを読みとっていきます。


「問題 4」の解答
いわゆる三角形成立条件とよばれるものです。文章だけで述べるならば、三角形の 3 辺の間には次が成り立ちます。

どの辺の長さも他の 2 辺の長さの和よりも小さい

すなわち、

これは次の条件にも言い換えることができます。

ある辺の長さは他の 2 辺の長さの差よりも大きく、和よりも小さい 

すなわち、

「問題 5」の解答  
三角形の面積を 2 辺の長さとその間の角で表すと、


となり、3 辺の長さで表すと、


となります。これはヘロンの公式とよばれる公式です。

 「問題 6」の解答


以上が解答だけです。

実は解答を示すまでなく問題を比べるだけで算数と数学の違いは見えてきていました。算数は長さや角に単位がついています。“cm”や“ ° ”です。長さは物差しで、角は分度器で「測る」ことを学びます。そして、三角形の面積についても同じく“平方cm”や“平方m”のような単位がつきます。

これらは、すなわち目の前にある図形に対して、その図形を測ること、「計量する」ことを学ぶということなのです。三角形、四角形、円といった基本的図形に対する基本的測量と計量、長さや面積、体積の単位の換算について小学校2年生から6年生まで5年をかけて学んでいきます。結果、図形やその計量という新しい概念を、目と手と頭を使いリアリティをもって獲得することができたのです。

そして、中学の数学を経て高校の数学になると、図形と計量の風景は大きく変わります。まず、cm や °といった単位が消えます。同時に目の前にかかれた図形を実際に道具を使って測量することはなくなります。辺の長さは単に a,b,c です。面積にしても長さの単位がcmであれば平方cm、mであれば平方mといった算数のときの注意は必要なくなり、単に S だけで表されます。計量の中でも角の測り方は大転換を迫られます。辺の長さから定規をなくしたように角度から分度器をなくしてしまいます。それが弧度法による角の測り方です。

 「問題 5」の三角形の角 A,B,C ではまだ“ ° ”でも大丈夫なのですが、「問題 6」の sin x の微分になると“ ° ”では不都合になり弧度法がどうしても必要になります。小学校で5年の時間をかけて新しい概念を獲得したのに比べると、高校での時間はあまりにも少ないのです。長さから単位 cm を取りのぞき、角度から ° をとりのぞき、すべてが x に変身したときに現れる風景が数学です。

私たち人類は「測る」と「計る」に対して数千年という長い時間をかけて算数から数学をつくってきました。それを思うとき、やはり高校の数学は新しい概念の獲得のためにはあまりにも時間が少ないと言わざるをえません。高校の数学の教科書に書かれていないことが、私たち人類が数学をつくってきた過程です。単に、算数から数学への移行は、具体から抽象といっただけではすまされないことです。抽象化された数学の結論はあまりにも清楚な姿をしています。それを教科書は教えてくれます。しかし、高校の数学は数学の入り口なので もっと先の数学の風景にこそ真なる清楚な様子が見えてきます。高校の数学を反面教師として、いまこそ算数から数学への大変身の様子をリアリティをもって獲得するチャンスなのです。(第1回了)

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